15th Anniversary Abe Mao

『NOW』Official Interview

デビュー15周年を迎えた阿部真央からニューアルバム『NOW』が届けられた。
通算11作目、IRORI Records/KAGAYAKI RECORDSからは最初のオリジナル・フル・アルバムとなる本作には「I’ve Got the Power」、「Keep Your Fire Burning」(アニメ『望まぬ不死の冒険者』EDテーマ)、「進むために」(漫画『君を忘れる恋がしたい』イメージソング)を含む10曲を収録。「やりたいことがしっかりと形にできた」(阿部真央)という充実作に仕上がっている。

「周年ってベストアルバムを出したり、振り返ることが多いじゃないですか。私も5周年、10周年のときはそうだったんですけど、今回(15周年)は今の自分をしっかり打ち出したくて。収録曲は独立を経てから制作した曲が中心だし、“今”聴いてほしい曲という意味で『NOW』がいいかなと」
アルバムタイトルを『NOW』に決めた理由をこんなふうに語った阿部真央。さらに彼女は「今までいちばん、やりたいことが形にできたアルバムかもしれないですね」と胸を張る。

「いい意味で“自己中”に曲を書けるようになったというのかな。“人がわかるように”とか“ウケるように”という意識も必要なんだけど、そういうことを考えないでも作れるようになったのは、クリエイティブとしてはとても健康的だと思います。自己中にやっても人に伝わる曲になるという自信も付いてきたのかなと」
サウンドメイクにおいても、彼女の創造性が存分に発揮されている。これまで阿部真央の音楽を支えてきたakkin、和田建一郎に加えて、Mori Zentaro、Rayons、knoakらをアレンジャーが参加。J-POPファンから洋楽リスナーまでアプローチできる、自由度の高いサウンドが実現しているのだ。

「去年(2023年)アコースティック・セルフカバーアルバム(『「Acoustic -Self Cover Album-」』)をリリースしたんですけど、制作時に“細部まで丁寧にやる”ということを学んで。『NOW』でも、そのときに得たことが活かされていますね。BPMを0.5刻みで変えていちばんシックリくるものを選んだり、歌詞の鳴りにもこれまで以上にこだわって。バンドのレコーディングもーーみなさん、ものすごく上手いんですがーー気になるところがあれば“ここだけ変えたい”という話をしたんですよ。独立して背負うものが増えて、“これは自分のプロジェクトなんだ”という意識がさらに強くなって。それも取り組み方が変わった理由かもしれないですね」
さらに特筆すべきは彼女のボーカリゼーション。音数を抑え、一つ一つの音を研ぎ澄ましたサウンドのなかで、より豊かなボーカル表現を響かせている。

「テクニカルに変化させているわけではないんですよね。声にはそのときのテンションやマインドがすごく出るし。ただ“抜かりなくやる”というのはやっぱりあって。上澄みの部分だけではなく、熱量だけで押し切るのでもなく、“この響きであれば大丈夫”だったり“しっかり情熱が滲んでいる”というジャッジというのかな。ときどき“メイクみたいだな”と思ったりしますね。下地を塗る段階からチークを仕込んでおけば、仕上げも上手くいくっていう(笑)」

では、収録曲について紹介していきたい。アルバムの1曲目は「Hands and Dance」。印象的なアコギのリフレイン、〈上がり下がり繰り返す心を咎めるよりも まず抱きしめるの〉というフレーズからはじまるミディアム・ロック・チューンだ。

「冒頭のアコギのアルペジオを見つけたときに、〈これをループさせて曲を作りたい〉と思ったのがきっかけですね。歌詞に関しては、いちばん最初の2行が最後まで書けなくて。メロディに合う日本語の響きも大事だし、メッセージも伴っていたくて、“どうしよう?”って考えていたんですけど、この曲に関しては響きよりも言いたいことをズバッと言おうと。つい物事の片方だけ見がちだけど、良いことも悪いことも両方あるし、そのことを受け入れたほうがいいなって思うんですよね。それは自分の心の中だけではなくて、世の中に対してもそう。結果的にこの曲で歌いたかったことを(最初の2行で)言い表せたので、それはよかったのかなと」

2曲目はアルバムのリードトラック「Somebody Else Now」。心地よい推進力をたたえたビート、抑制の効いたメロディ、鋭利さと浮遊感を共存させたギターが絡み合うこの曲は、アルバム『NOW』のクオリティの高さを端的に示している。「こちらが成長したときに、そこに留まり続ける人とは一緒にいられないよねということを歌った曲です」という歌詞にも、彼女のリアルな思いが刻まれている。

「アルバムの曲が出揃ってきたときに、”リードになる曲がないかも”と思って。“よしアルバムのリード曲を作ろう”と思って書いた曲ですね。そんなことは初めてだったし、やれるかどうかもわからなかったけど、いい曲が出来ました(笑)。歌詞に関しては……私自身、同じところに留まることを良しとしないタイプなんですよ。ここは違うと思ったらすぐに別のところに行こうとするし、行動も早くて。恋愛に関して言えば、好きという気持ちがあれば、相手のことを察して手を差し伸べることもできる。でも、それが当たり前だと思われるとイヤになるんです。『Somebody Else Now』の歌詞は、“がんばって自分から離れる”というイメージなんですけどね」

続く「Keep Your Fire Burning」は、カントリーミュージックのテイストを取り入れた楽曲。古き良き音楽を現代的なポップミュージックへと昇華したサウンドのなかで、“あなたの心の火を燃やし続けて”というメッセージをたたえた歌が広がる。

「アニメ(『望まぬ不死の冒険者』)が海外でも強く打ち出されている作品だったのもあったし、英語のWEB CMも作るということだったので、海外の方が受け取りやすくしたいと思って。もちろんアニメ好きの方が観るわけですけど、たとえばその人の家族が『Keep Your Fire Burning』を耳にしたときに“誰の歌?”って興味を持ってもらえたらなって。カントリーについては、アコースティック・セルフカバーアルバムを作ったときにリファレンスとしてよく聴いてたんですよ。あとはビヨンセが(アルバム『COWBOY CARTER』で)カントリーをやったことで、白人ではない私もやりやすい状況があった気がして。実際、海外の方がかなり聴いてくれてるんですよ。「日本語でカントリーの曲が聴ける日が来るとは思わなかった」というコメントもあって、ちゃんと届くなんだなって実感しました」

4曲目の「Everyday」は美しく、凛としたピアノのフレーズを軸にしたバラードナンバー。優しさと繊細さを感じさせるボーカルとともに描かれる、〈キレイなまま生きる/あなたが笑えていますように〉というラインに心を打たれる。

「何となくピアノを弾いてるときに、“このコードいいな”というフレーズがあって。そこから作り始めた曲ですね。ラブソングなんですけど、この曲も聴く人によって受け取り方が違うと思います。愛しい人という意味では自分の子供にも当てはめられるだろうし、“あなた欲しい”とか“憎い”という感覚とは違う、すごくピュアな気持ちが書けたんじゃないかな。編曲はRayonsさんにお願いしました。スタッフの方からの推薦だったんですけど、彼女の楽曲を聴いて、すごく良さそうと思って。コーラスもお願いしたんですけど、私以外の女性の声が私の曲に入るのは初めてですね」

時計の針の音、アコギの響きから始まる「Maybe」は、オーガニックな手触りの楽曲。全編英語詞で歌われているのは、〈Everything's going well, so why?〉 (全てうまくいっているのに、なぜ?)という切実な思いだ。

「ZEDDの「ザ・ミドル」(ZEDD, Maren Morris & Grey)という曲が好きなんですけど、その曲も時計の音からはじまるんですよ。その話を(アレンジを手がけた)和田健一郎さんに話したら、この曲に時計の音が入っていて(笑)。アップダウンの“ダウン”を歌っているんですよ。何もかも順調に進んでいるはずなのに、突然不安になって、どうしてそうなるのかわからないっていう。あと〈ときどき自分がここにいないような気がする〉と歌っていて。実際、そういう感じがずっとあったんですよね。人とお話していても、ちょっと先のことに気を取られたり、過去のことが頭をよぎったりして」

「Go Away From You」はゆったりとしたギターリフから始まる。カントリーとロックが混ざり合ったサウンド、大らかさと鋭さが一つになったボーカルを含め、“今”の阿部真央の音楽性がストレートに感じられる楽曲の一つだ。

「“アメリカのカントリーのミュージシャンがやるロックサウンド”みたいな感じかもしれないですね。丸くて乾いた曲が多いなかで、いきなりスネアがスパン!って鳴り始めたというか。この曲は絶対に英語で歌たかったですね。しかも日本語の歌詞を英語に訳すのではなくて、最初から英語で書きたくて。洋楽を聴いていると、(歌詞のなかで)“着目しているポイントが違うな”ってよく思うし、そこに興味があって。それを自分で確かめてみたかったんですけど、この曲の歌詞を書いて、ちょっとわかった気がします。英語が堪能なスタッフの方にも手伝ってもらったんですけど、こういう歌詞は今後も書いていきたいですね」

7曲目の「進むために」は、集英社「別冊マーガレット」で連載中の「君を忘れる恋がしたい」(結木悠)のコミック第2巻発売記念のイメージソングとして書き下ろされた。“この恋がどういう結末を迎えても、自分自身で決着を付けたい”という感情を描いたロックチューンだ。

「アルバム制作の途中でお話をいただいて作った曲なんですが、私自身も気に入っていますね。マンガもすごく面白いし、なにより作者の結木先生がよろこんでくれたのがうれしくて。マンガのテーマと普段から私が考えていることが近かかったんですよ。結木先生とお話させてもらったときも“大事にしているものが似てるな”と思って。縁を感じますね」

「I’ve Got the Power」は、どん底に落ち込んだ状態から“ここからまた飛ぶんだ”という意思を示したパワーソング。KAGAYAKI RECORDSからの最初のリリースであり、アルバム『NOW』の起点になった曲と言えるだろう。

「新しい体制になって最初の曲なんですけど、今聴いてもカッコいいなと思いますね。『I’ve Got the Power』の前に出した『Sailing』は船出をイメージしていて。“今までいた場所から出航する”という曲だったんですけど、それを経て、大地を踏みしめて歌うという感覚があるんですよ、『I’ve Got The Power』には。“自分はここにいない”という状態が長く続いていたんですけど、だんだんと自分の身体に心をちゃんと入れて音楽をやれるようになってきた。そのことを初めて歌った曲だし、私にとってもすごく大事な1曲になりました」

9曲目の「またどこかで会えたら」は阿部真央の原点とも言えるアコギの弾き語りによる楽曲。ライブ感のあるアコギのストローク、切なさが滲むメロディ、〈またどこかで会えたら また一緒に笑ってほしい〉という歌詞がナチュラルに響き合う。

「すごく辛い別れがあったんです。恋愛ではなくて、とても信頼していた人がスッといなくなってしまって。私が人を信じるときは、完全に心を開くし、嫌いになれないんですよ。だからこそ、その人がいなくなったことが辛くて、“これは乗り越えられるだろうか?”と思うくらい堪えて……。そのときの気持ちをそのまま書いたのが『またどこかで会えたら』なんです。プリプロで歌ってるときも泣いてしまうほどだったんですけど、そういう曲は一人でやりたいんですよね、私は。“またどこかで会って、笑える日が来るといいな”というのも本当の気持ちです」

さらに「Somebody Else Now」の-Acoustic ver.-も収録。

「プリプロをしてるときに、私がその場でコーラスとビートを入れたら、“このバージョンもカッコいいね”ということになって。そのときの感じで一人でやってみたバージョンですね。アヴリル・ラヴィーンのアルバム『アヴリル・ラヴィーン』の日本盤に「ロックンロール」という曲のアコーステック・バージョンが入っていて。それが好きだったので、その雰囲気でやりたいなという気持ちもありました」

事務所からの独立、レーベルの設立を経て生み出された最新アルバム『NOW』。シンガーソングライターの新たなフェーズを示す本作を引っ提げて彼女は、今月から始まる15周年ソロツアー【15th Anniversary Abe Mao Solo Live Tour 2024】、10月に行われる15周年Zeppツアー【15th Anniversary Abe Mao Zepp Live Tour 2024】、そして、2025年1月26日(日)の東京ガーデンシアター公演【阿部真央らいぶ2025 -15th ANNIVERSARY- at 東京ガーデンシアター】へと向かう。アルバム、ライブを通し、阿部真央の“今”を感じてほしい。

「ライブでも“そのままの自分”“抜かりない自分”を見せたいですね。楽しいライブ、感動できるライブになるのは間違いないと思っていて。それをできるだけたくさんの人に見てほしいなって思ってます。アルバム『NOW』を聴いて“面白そうだな”と思ってくれた人もそうだし、“しばらく阿部真央のライブに行ってなかったな”という人たちにもぜひ来てほしいですね!」